課題の教科書

Critical Realism for All Leader

小説家を志望する人の才能ありなし問題の決着のつけ方

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こんにちは。ポエタです。

小説を書く才能の有無って難しい問題だと思います。

学校で小説を書く能力について評価されることは、あまりありませんよね。

だから、あるのかないのかはよくわからない。

賞でもとれば、あるのは確実なんでしょうけど、いきなりハードル高すぎます。

今回は、小説を書く才能の問題について決着をつけたいと思います。

1 はじめに

小説家というと、まず、明治から昭和にかけて活躍した文士を思い浮かべます。こういう人たちは、貧乏で病気がちで、恋愛沙汰で社会的な問題を起こし、退廃の極みの中で作品を書く。そういうステレオタイプな小説家像のモデルでした。

そういう小説家に憧れて、「小説家になりたい」と思う人が、どれくらいいるかわかりません。ですが、こういうタイプの小説家は、謎めいていて、危険な才能の持ち主のように見える。だから小説家になるには、何か特別な才能の持ち主でなければならない、そう思ってしまいます。

しかし、平成の世になって本格的に脚光を浴びた小説家は、それまでとは違う小説家像が似合います。どこか洗練され、気品が行き届き、健全な意見を言う、良識の体現者というべき社会的地位を確立している。そうなると、小説家という職業は、どこか身近で手が届くもの、と思えなくはない。

しかし実際は、そう簡単ではないわけです。年間で新人賞をとる人はごくわずかであり、小説家志望が出稿できるネットサイトは競争者でごったがえしています。小説家になるためには、どんな才能が必要なのか。常に凡人が憂慮してやまない問題は依然としてあります。

村上春樹という小説家は、『職業としての小説家』(2015年、スイッチ・パブリッシング)を著しました。その中で、明確に区別しているのは、職業と才能の問題の違いです。私たちは、職業としての小説家を目指すなら、才能の有無を論じてしまう。しかし、村上は、この考え方に明確にNoを突きつけます。その主張はどんなものか。『職業としての小説家』を素材として、考えたいと思います。

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2 村上春樹が語る「小説家の才能」

(1)少し才能があれば書ける

「少しでも才能のある人なら、最初から優れた作品を書くことだって不可能ではありません」(P.14)。断定的ではありませんが、村上は、才能の有無は、それほど重要ではないかのように言います。ただ誤解を避けるように、こう付け加えます。「小説というのは誰がなんと言おうと、疑いの余地なく、とても間口の広い表現形態なのです」(P.15)。

確かに、特別な才能がなくても、日本語の能力さえあれば、小説という最低限の形式を備えた文章は容易に書けるでしょう。村上はこうも言います。

「しかし小説を長く書き続けること、小説を書いて生活していくこと、小説家として生き残っていくこと、これは至難の技です」(P.15-16)。もちろん才能は必要ですが、それにも増して「資格」が要る。村上はそう強調しています。

小説を書くという行為を何十年も続けるには、よほどの忍耐力がなくてはならない。そういうことを村上は職業人としての資格と呼んでいます。なおかつ、資格があるかないかは、やってみないとわからない旨、述べています。

思うに、ここで村上が言いたいのは、多くの小説家志望は、才能の有無に悩むが、本当は才能の有無は小さな問題で、十年でも二十年でも小説を書くことを続けることの方が大きな問題なのだ。小説家になる上で、才能に悩んでいる人は、何か本質的なことの気づきが欠けている。小説を書くことに苦労し悲鳴をあげて、才能がほしいと叫ぶ人は、その時点で資格を得られない。そして、資格を本当に与えられるか否かは、やってみないとわからない、未知の領域であり、特別な力が決めるだけの話だ。そう言いたいのではないでしょうか。

(2)小説家の資格とは

小説家という職業は、要件のはっきりしない資格だということになります。村上は、今も現役の小説家ですから、とりあえず今は、資格があることになります。村上はこう言います。

「自分は何かしらの特別な力によって、小説を書くチャンスを与えられたのだ」(P.53、傍点略)。これは村上の率直な認識です。またそう言う少し前に、小説を書くことを苦しいと思ったことは一度もないし、小説を書くことは決して苦役ではないと述べています。

こんな実感を持ったことのないポエタとしては、ただそうですか、としか言えません。ただ、こんな疑問がわいてきます。「では、小説では何を書くのですか?」

村上は、小説を書きたいなら、あたりを注意深く見回して下さい、と言います。そして、「世界はつまらなそうに見えて、実に多くの魅力的な、謎めいた原石に満ちています。小説家というのはそれを見出す目を持ち合わせた人々のことです」(P.131)と言います。

村上は、何を書く、とは言わない。あなたが見つけるのだ、とほのめかしています。どうもこの辺に、資格の問題の一角が横たわっているようです。

(3)小説家の基礎体力

また、村上は、締切など、時間に追われる書き方はしたくない、と言います。相手に対して積極的に働きかけて、スケジュールを意図的に設定しよう、と言います。そして、自分の書き方を可能にしてくれる「自分なりの固有のシステムを、長い歳月をかけてこしらえ、僕なりに丁寧に注意深く整備し、大事に維持してきました」(P.159)と語ります。

このシステムが具体的に何なのか、村上はすぐには明示しませんが、文意から察すると、この著書で論じていることの総体が、それのようです。

また、村上は、小説を書く作業を我慢強くこつこつ続けるには、持続力が必要だ、と言います。そして持続力を身につけるためには、ただ一つ、基礎体力を身につけることだ、と断定します(P.168)。

かつての、破滅的な人生を小説のように駆け抜けた文士たちにはあまり見つけることのできないものが見えてきました。つまり、小説家は天才から職業へと置き直されているのです。

 

3 小説家の才能問題を越える課題

(1)村上春樹が伝えたかったこと(推定)

村上は、この著書でいったい何を伝えたかったのでしょうか? 村上は、冒頭で、何を書きます、と論理的な規定はしていません。ただ、あとがきで、「自分が小説を書くことについて、こうして小説家として小説を書き続けている状態について、まとめて何かを語っておきたいという気持ちは前々からあり(後略)」(P.308)と語っています。

思うに、村上は極力正直に、自分が小説家として何をどのようにしているのかを、明らかにしようとしています。私たちは、村上の自己理解にただ付き合わされているのではなく、自分が小説を書く動機を持っているかを、読みながら試されている気がします。この著書を読んで「これでわかりました」という人は、きっともう小説は書かない。「読んでもわからなかったからもっとわかりたい」という人が、小説を書くのだと思います。

(2)課題を出す問い

あなたが小説を書く才能に悩んでいるとしたら、「あなたは小説家になりたいのですか?それとも小説を書きたいのですか?」という問いに答えてみてはどうでしょうか。小説家になるには、特別な力に認められた資格がいるようです。しかし、小説は誰にでも書けます。好きなだけ書けばいい。小説の間口は広いのですから。

小説を書く才能に悩む原因の多くは、他人に起因します。新人賞がとれないのは、審査委員の決める問題であり、人から評価されないのは、他人の勝手です。書きたいことを書く、それが楽しいから続ける、そのうち小説家になるチャンスをもらえたら、小説家としての資格を付与されるかもしれない。

ただ書きたいなら、自分の意思で叶う。賞や評価の問題を問うのは、問題の所在をズラしています。決められるものを決められなくしている。書きたいものを書いて悩む、苦しむ、悲しむ理由は本当はないはずですよね。

ある意味においては、正直になること。村上は、この著書をできるだけ正直に書こうとしていると思います。どうも、それが、広く作家としての大切な構えであるような気がしてなりません。偉ぶらず、かっこつけず、飾らず、本当に伝えたいことを余念無く書く。そこに小説家としての品位の源を感じなくはない。

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4 最後に

(1)自分を客観化してみる

ここでは挙げませんでしたが、村上は、どのように小説を書くかについても語っています。読んだ感想としては、小説を書く能力は技術というより、技能に近い気がしました。

技術は言語化できますが、技能は言語化できません。技能は身についてなんぼの代物です。ですが、技能の中身を自ら省察する必要があります。

ポエタは小説家志望ではありません。ですが、小説を書くことに悩んだら、自分が小説というものをどう書こうとしているか、他人にわかるように説明してみると思います。自分のあり方や行為を客観的に眺め、何をしているのか、批判してみる。あるいは、他人がやっていることのように羨ましがってみる。そうすれば、自分がどんなかけがえのないことをしているのか、感じるのではないでしょうか。

他人の家の庭の芝生や青い、と言いますが、自分のやっていることは、ひょっとして羨ましい限りの営みかもしれません。と同時に、手厳しく批判できるものかもしれない。そうやって、自分自身を鍛えることが、最終的に技能を豊かに備えることになるのではないでしょうか。

(2)まとめ

  • 小説家としての資格は才能より重要
  • 資格の有無は書いてみないとわからない
  • 小説家になりたいかor小説を書きたいか、を決める
  • 自分のできることを最大限頑張ろう

ポエタ

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後記:新潮社の出している文庫本だと携帯しやすいです。

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