課題の教科書

Critical Realism for All Leader

定期購読している日経ビジネスのM&A特集記事でどんな課題があぶり出たか

こんにちは。ポエタです。

最近、「課題」を積極的に取り上げる報道が増えたように思います。

今回のコラムでは、「課題をあぶり出す」と銘打った「日経ビジネス」の特集記事を批評します。

M&A特集を例として、課題を批評する難しさを見つけました。

目次です。

 

1 はじめに

日経ビジネスの購読申し込みをしました。その決め手は、広告パンフに書いてある「日経ビジネス」からの提案でした。「「2020年」以降に渦巻く悲観論から脱却する。課題をあぶり出し、さらに成長していくための処方箋を提示します」とあります。

課題を批評するブログの運営者として、思わず手が出る提案でした。

今回のコラムでは、日経ビジネス(2018年11月5日No.1965)のM&A特集記事で、どんな課題があぶり出たかを検証したいと思います。

 

2 記事の概要

(1)実務上のリスク・問題点を列挙

特集記事の章立てはこうなっています。

  • PROLOGUE:LIXILグループ前社長のインタビュー
  • PART1:失敗はこう防ぐ
  • PART2:M&A支える黒子たち
  • PART3:地道な実務が成否を握る
  • EPLILOGUE:経営者に問われる覚悟 

PROLOGUEとEPILOGUEを除く記事本体では、M&Aの実務面に焦点があたっています。実務上のリスクや問題点が列挙されています。その一方で、経営者の意思決定や経営戦略に関する論評が、少ない気がしました。

M&Aの実務はかなり広い領域に渡り、高度な専門性が求められるため、注目を集めやすいのはわかります。しかし実務の大元となる戦略的思考や意思決定に関する記事が少ないのはなぜでしょうか。

経済記事を書く人は、取材対象から多くを学ぶでしょう。M&Aの大元に関する論評が少ないのは、取材対象である日本の経済界に、M&Aを大元から語る人が、それほど多くないからではないか、と思いました。

(2)「M&A巧者」?

今回の日経記事の特集は、最後のEPILOGUEで、1980年代以降の日本のM&Aの歴史を振り返っています。今に続く第3次ブームでは、「長期的な戦略に立ったM&Aが増えてきた」とする識者の指摘を紹介しています。また、「日本企業は過去の失敗から学び、自社の成長に結びつけるM&Aの型を持ちつつ」あり、「『M&A巧者』が徐々に出てきた」とする評価もくっつけています。そして、「経営者に求められるのは長期視点に立ったブレない覚悟だ」の一文で、この特集は締めくくられています。

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つまり、特集の最後に至ってM&Aの大元になる経営論が垣間見えるわけです。しかし、ブリヂストンによるファイアストン買収の事例は少し紹介されていますが、『M&A巧者』の定義や要件は明示されていません。肝心の「長期的視点に立ったブレない」経営についての論評が最終盤ですし詰め状態になり、かけ声で終わっているように読めます。

(3)戦略事例に乏しい

読者としては、M&Aの大元となる戦略例と戦略論を知りたいところです。今回の日経記事では、実務面の詳細なレポートが大半を占めています。

なぜ戦略論が記事にならないのでしょうか。その理由は、事例が存在しないからなのか、事例があっても取材できないからなのか、戦略論を重視しない編集方針があるからなのか、どれかだろうと思います。

企業側に立って想像してみると、成功例にしろ失敗例にしろ、戦略部分は企業機密に近いため、あまり宣伝したくないのかもしれません。そういう意味では、大元の戦略論の重要性についての認識までもが欠落しているとは思いたくありません。

 

3 M&Aで戦略が大事な理由

では、なぜM&Aでは大元の戦略が大事なのかを考えたいと思います。

(1)競合問題

大元の戦略は差別化されている必要があります。ありきたりな戦略だと、どの企業も欲しい買収先候補は似たようなものになるかもしれません。例えば、「自社が持たないノウハウで高い収益性を築き上げた時価総額が少ない会社」です。

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実際には、企業によって候補先を探すための情報源は違うでしょうから、個別の候補先は、ある程度ばらけてくるとは思います。しかしポエタが言いたいのは、最初からM&Aありきの戦略で考えると、買収候補先に当てはめる評価軸が似てくるのではないか、ということです。「ノウハウ」「収益性」「時価総額」などです。(全てを知らずに勝手言ってます)

差別化された戦略を構想し、独自の狙いで評価軸を設定すれば、買収合戦で他社と激しく競合するリスクは、ある程度おさえられるのではないかと思います。

(2)デュー・デリジェンス(資産査定)の要点

買収先には隠れたリスクはつきものです。買収後に思わぬ事実が発覚して減損を強いられ、財務が悪化する話はよく聞きます。

リスクを特定するために、買収候補先のことをよく調べる「デュー・デリジェンス」が重要です。しかし、デューデリ以前に、何を狙って買収するかによって、リスクの種類は異なってくるのではないでしょうか。

買収先の収益の良さが魅力なら、収支を押し上げていた裏の要因として、隠れたコストが潜んでいるかもしれません。買収先の収益が悪いなら、買収後に収益力を改善させる伸び代を狙えるかもしれません。伸び代の程度は不確実なものなので、リスクの一つです。

何を狙いに買収するかは戦略そのものによります。なので、どんな戦略をとるかによって、事前に査定すべき重要ポイントは異なるはずです。デュー・デリジェンスの成否は、買収の狙いによるのではないでしょうか。

(3)意思決定の条件

M&Aを交渉の場に持ち込んだ場合、買い手と売り手との間では、しれつな情報戦や交渉術が展開されます。結局、売り手は高く売りたい。買い手は安く買いたい。決定的に異なる思惑の対立を乗り越えて、交渉を妥結させるのは大変な努力を要することです。

その労苦に耐えかねて、実務方の思いひとしおで、安易な妥協で交渉をまとめるのは危険です。交渉妥結を目的とせず、合理性に基づいた意思決定をしなければなりません。

その経営合理性を成り立たせるのが、大元の戦略的な狙いのはずです。買収を提案する側にとっての交渉妥結の条件は、戦略の狙いが何だったかです。実務を担当する事務局も、常に経営者に合理的な意思決定をしてもらえるよう、わかりやすい説明や議論の論点整理を心がける必要があります。

(4)PMIへの落とし込み

M&Aの主なプロセスは、「事前準備」→「条件交渉」→「買収後の統合作業(PMI)」の3つです。最初の二つのプロセスで、「適正価格」と「交渉妥結」の成果を勝ち取っても、それで終わりではありません。最後のPMIは、買収の狙いの中身を実現する重要プロセスとなります。

これまで、M&Aの戦略的な狙いの重要性を強調しているわけですが、「適正価格」と「交渉妥結」だけで狙いを達成することは、ほとんどないでしょう。買収先の会社を自社の戦略に組み込んでいく統合作業なくして、M&Aの効果は期待できません。買っただけでは何も生まれないからです。

もちろん買っただけで効果が出るM&Aもありえるでしょう。とにかくグループの事業規模を増やすことが狙いであれば、統合後の作業はそこそこにしても、一応の狙いは達成されるからです。PMIの重要性も、M&Aの戦略の狙いをどこに置くかで変わります。

逆に言えば、統合後の作業の方向性を具体的に狙い定めたM&Aである限り、PMIなくして統合効果を発揮することはできません。結局、M&Aで何をやりたいのか、その狙いを貫徹する作業が、PMIということになります。

 

4 最後に

(1)「課題をあぶり出し」たか

日経ビジネスの記事では、ポエタの理解する限り、M&Aに関するどんな課題も明示されていないように思いました。課題は戦略の重要な要素です。記事からM&Aの実務的な課題を読み取ることはできます。しかし、経営課題としては練りきれていません。企業戦略は経営課題なくしては語れないのではないでしょうか。

広告パンフには「課題をあぶり出」すとありますから、編集サイドとしては課題を指摘するのではなく、読者に読みながら課題を思い浮かべてもらいたい、という趣旨だったかもしれません。

結局、課題は読者が誰かによって異なります。実務の人が読めば実務的な課題を思い浮かべるし、経営者が読めば経営課題を思い浮かべます。今回の日経ビジネスの特集記事の想定読者は、どちらかというと実務よりだったのかもしれません。

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今回の日経ビジネスの特集記事を通じて、不特定多数の読者を相手に、課題を論じることの難しさを再確認しました。このブログも、「事例編」は歴史上の人物の目線で書くことで問題ないと思っていますが、「実践編」はどの目線で書くのか、今も漂流中です。

今後も模索したいと思います。

(2)まとめ

  • 今回の日経ビジネスのM&Aに関する特集記事は実務目線が中心
  • M&Aは経営の視点での戦略的な狙いが重要ポイント
  • 実践的に課題を批評する時は、どういう目線で書くかが難しい

<主要参考文献>

日経ビジネス「特集:失敗するM&A成功するM&A」2018年11月5日、No.1965、日経BP

ポエタ

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