課題の教科書

Critical Realism for All Leader

課題を重んじる人の高度な意識とは何か事例をもとに考えた

こんにちは。ポエタです。

事例編で述べてきた歴史上の課題への取り組みは、“高度な”意識の賜物でした。

今回は、課題に取り組む意識の持ち方を、事例に基づいて考察します。

これまでの事例検討のまとめとしての理論編です。

目次です。

1 はじめに

これまで、事例編で、リアリズムを背景とした当事者の取り組みを考えました。その中で、課題を重んじる人の高度な意識とは何なのかを考えたので、整理します。

 

2 理想と現実のギャップは常にあると達観する

課題への取り組み、つまり仕事は、理想的な状態を目指して、現実を変えようとすることです。しかし、根本的な部分を正確に踏まえる必要があると思います。仕事のスタートは、理想と現実のギャップを“ありえない”こととして、否定することではないと思います。むしろ仕事のスタートは、理想と現実のギャップを受け入れることではないか。

理想と現実のギャップを否定すると、望ましくない現実のほうを否定し、視野が狭くなるおそれがあります。理想と現実のギャップを受け入れることで、仕事の視野を広くもち、前向きに取り組むことができます。

極論かもしれませんが、仕事は、常に一瞬の“泡沫的な”(あぶくのようにはかない)事象に従事することだと思います。理想と現実にギャップがある状態は、世の常です。常に泡沫的にわき上がる問題に向き合う必要があります。その際、今抱いている理想像と今起きている現実との間のギャップを、ありのままに直視することが重要だと思います。

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大事なのは、あるべき理想の状態と現に起きている事象を、両方とも、しかも均等に視野におさめることです。理想に傾くと現実を否定、あるいは無視してしまいます。

漱石の事例で、漱石が文学の本質を明らかにするために、自ら作品を書くことを課題に定めた経緯を考えました。

漱石はその後、33歳(1900年)で英国に留学し、英文学を研究しますが、いくら考えても、いくら読んでも、英文学とは何か、文学とは何かについて、得心いく結果は得られませんでした。 しかし、この時、漱石は、ようやく思いさとります。 「この時私は始めて文学とはどんなものであるか、その概念を根本的に自力で作り上げるより外に、私を救う途はないのだと悟ったのです。」(夏目漱石『私の個人主義講談社学術文庫、1997年、P.133)

夏目漱石は自己本位を基に「私の個人主義」で個性がひらく課題を語った - 課題の教科書 

漱石は、文学の本質定義という理想を常に追求していました。しかし、自分は文学を批評するだけで、小説作品を著していないという現実を、十分踏まえていませんでした。こういう現実認識は当たり前のようですが、とても難しいことだと思います。理想と現実を同じ視界の中で均等に見据えることの難しさです。漱石は、自分が肝心の小説作品を書いていないという事実をあえて自覚しました。漱石は自分の理想と現実を均等に見据えることによって、課題設定にたどり着いたのだと思います。

 

3 落ち着いて想像力を発揮する

一方で、現実にひたりすぎると、理想的な状態を思い描くことが難しくなるようです。現実に起きたことにひっぱられず、次に起き得ることを想像することが大切だと思います。

テミストクレスの事例では、過去の成功事例であるマラトンの戦いの勝因を踏まえつつ、その延長線上に進むことをよしとはしませんでした。これは、おそらくテミストクレスが、ペルシア側の司令官が考えて行き着くであろう先を、的確に想像した結果ではないかと思います。

ポエタは考えます。アテネは、ほぼ海沿いに位置する都市国家でした。ペルシアの司令官が、「アテネの弱点は海にある」と目をつけたとしてもおかしくありません。 たとえ補助的戦力であったとしても、ペルシア海軍が大々的に押し寄せて来たら、海側からアテネを封鎖される恐れがありました。すると、アテネは海からの物資の補給を絶たれます。テミストクレスは、ペルシアによるフェニキアの船の活用動向を察知し、海上封鎖を防ぐため、アテネ自ら海軍力を増強することを課題に据えたように思われます。

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また、アラビアのロレンスの事例で、戦争終結後の外交交渉のテーブルを想定し、戦時においても自由の原則論の重要性に着目する想像力は、反乱支援の大きな拠り所であったと思われます。

ただ、重要な点は、ロレンスは、「自由は与えられるのではなく取るものだ」と強調している点です。深読みすれば、「アラブ民族は、戦争終結後、自国の領土を主張するには、自らがその地域を獲得していなければならない」と、自力尊重の原則を強調していたように理解できます。

アラビアのロレンスはゲリラ戦以上の課題を深掘りした|アカバ攻略まで - 課題の教科書

現実のただ中で、理想的な状態を想像することは案外難しいことだと思います。なぜなら理想的な状態を思い描くことは、自分が取り組まねばならないギャップを大きくすることだからです。そこに心理的な壁があるのだと思います。

想像力を健全に働かせることが、的確な課題設定において大切なことだと思います。

 

4 常にあるギャップを背負う持続力をもつ

周囲の人は、課題の取り組みの結果が出ないと、「やっぱりダメなんだ」と批判的なことを言うかもしれません。そういう時に、今起きている事象だけで議論を始めると、「だからダメなんだ」という結論になりがちでしょう。

このような場合は、現実感に埋没しがちな議論とは一定の距離を置きつつ、自分は未来を想像し、活動意欲のよりどころとする必要があるのではないでしょうか。

タイミングは様々ですが、ソロンの改革、漱石テミストクレス等の事例でも、一定の批判者が登場しました。

また、ソロンは、利権を減らされた貴族側からはうらまれ、土地の再分配を期待していた平民層からは、期待はずれだと思われ、あまりいいことはありませんでした。

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おそらく、想像するに、取り組みの主体者は、どの人も、批判に耐えながら取り組みを持続させるという、苦労をしたと思います。成功事例を聞くと、成功の花やかさに目が行きがちですが、そのプロセスで当人のみが感じた苦労を見落としがちです。結果が出るまでは、他人からのプレッシャーに耐える苦労はするものとして受け入れ、取り組む必要がありそうです。

 

5 プロセスと結果の間の壁は行動力で突破する

プロセス重視か結果重視かの評価のスタンスは、どちらが正解というものではありません。ですので、評価のスタンスは絶えず揺れ動くのが普通のようです。

多くの人は、自分の取り組み中は、プロセスを重視して評価します。結果がまだ出ていなくても、やっていることを前向きに評価したくなります。

一方で、他人の取り組みに関しては、結果重視で評価しがちのようです。結果がすぐに出ないと、プロセスが良くないと批判的に見がちです。

結果主義の評価スタンスは、周囲に対して説得力があります。「結果が出ていない以上、何か問題がある」という意見は力を持ちやすい。結果主義は、取り組みの当事者にとっては厳しい評価スタンスです。

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取り組みの当事者が直面するのは、「結果が出るまでの間のプロセスは、常に批判にさらされる」という冷厳な事実です。結果が出るまではプロセスの成否は不明ですから、たとえそのプロセスが正しくても、周囲の人はついて来ないかもしれません。

こういう途中途中の状況を残念がっても仕方ありません。また、これは簡単に思考力で打開できるものでもないでしょう。たとえ批判者と議論しても、立場の相違を確認することはできても、全員を賛同者にするのは難しいのではないでしょうか。

結局のところ、賛同者だけを率いて自分が行動し、少しずつ状況を打開していくほかないような気がします。諸説あるかもしれませんが、アラビアのロレンスアカバ攻略は、その意義に大きな賛同が集まらない中、ごく少数の賛同者だけで成し遂げられました。

実は、ロレンスがアカバ攻略を企画した段階で、多くのアラブ人は、前向きではありませんでした。なので、ロレンスのアカバ攻略には、実にわずかな手勢しか従いませんでした。つまり、アラブ軍全体の雰囲気としては、ダマスカスどころか、アカバまで攻め入るという気は、途中までは、あんまりなかったようです。

「アラビアのロレンス」の6つの謎をさらに深掘りして語ります - 課題の教科書

アカバ陥落の結果、アラブの反乱の戦局は大きく変化しました。

 

6 最後に

まとめです。

・理想と現実のギャップは常にあると達観する

・落ち着いて想像力を発揮する

・常にあるギャップを背負う持続力をもつ

・プロセスと結果の間の壁は行動力で突破する

ポエタ

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