課題の教科書

Critical Realism for All Leader

銀行「業界」の課題の射程は金融緩和が出口をむかえる先まで伸ばそう

こんにちは。ポエタです。

今回は実践編です。

目次です。 

1 はじめに

スルガ銀行の不正融資問題が取りざたされています。無理な融資で利ざやを稼いでいたようです。

普通は銀行が取り扱わない、単身女性や個人事業主向けの住宅ローンを開発していたようです。また、融資条件を満たさない人の審査書類の偽造までおこなっていたそうです。

これまで、ポエタは、銀行の審査は、厳格な基準に則って、おこなわれているものと思っていました。ですが、スルガ銀行の融資実態は、かなり普通ではなかったようです。

しかし、なぜこれほどまでに問題のある融資がまかりとおったのでしょうか。報道では、パワハラや特殊な企業風土に問題があったと言われています。

 

2 スルガ銀行の不祥事の背景

日銀の金融緩和で、世の中にはカネがあり余っています。金利の低下で、どの銀行も利ざやを稼ぎづらい事業環境です。特に経営体力に限界のある地銀は、統合・合併も視野に入れるほど、生き残りに必死です。

スルガ銀行の経営状態を数値で把握してみます。

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(出所:各行決算短信、説明資料等)

預貸金利ざやは、貸出利回りから預金利回り等を引いた差です。預貸金利ざやを見ると、預金で集めたカネを貸し出す際、預金者に支払う利回りを貸出しで受け取る利回りがどれだけ上回っていたかがわかります。預貸金利ざやは、銀行が稼ぐ収益の源泉であり、競争力です。

この表の通り、スルガ銀行の利ざやの高さは、他の有力地銀と比較して突出しています。

次に、スルガ銀行の利益率を他行と比較しました。

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(出所:各行決算短信、説明資料等)

経常利益率も他行と比べて非常に高い水準です。

スルガ銀行は、厳しい事業環境の中でも、「地銀の優等生」と呼ばれ、他行と比べて高い業績をあげていました。しかし、スルガ銀行の高い業績は、組織的な不正融資等、問題の多い組織体質によって生み出されていたわけです。

スルガ銀行の不祥事問題は、組織体質が温床であるとされています。しかし、金融緩和時代の事業環境の悪化が、スルガ銀行の不正融資に拍車をかけた面があるのではないか、とも思います。もしそうだとすると、スルガ銀行の不祥事は、これまでと同じ発想では生き残っていけない銀行業界の受難の象徴であると言えます。

 

3 銀行が向かう方向性の選択肢

金融緩和時代に、国内において、銀行が向かう方向性の選択肢は大きく4つあると思います。

(1)貸出ボリュームの拡大

(2)新規貸出領域の開拓

(3)合併・統合戦略

(4)経費の削減

 

(1)貸出ボリュームの拡大

銀行の競争力の源は、単に利ざやのみでしょうか。銀行の本来の役割は、信用付与です。

ある企業が新規事業を開発するため、複数の銀行に融資を依頼したとします。各銀行は事業計画を踏まえて融資の可否を審査し、可の場合、貸出額と期間、それから金利の利率を設定します。ここで、金利の利率は、その事業のリスクを加味した水準に設定されるでしょう。リスクが高ければ高め、低ければ低めです。

その企業に信用力があれば金利は低めになるはずです。しかし、全ての銀行が同じ金利を設定するとは限りません。特に審査能力が高く、事業を見る目利きがある銀行は、他行よりもその企業の信用力や事業の有望性を高く評価し、他行より低い金利を設定するかもしれません。その場合、企業は、その銀行からは低い金利で借りることができますから、他行からの借入額はそこそこにして、その銀行から多めに借りたいと思うでしょう。

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つまり、銀行が企業の信用力を正しく評価する目利きを備える場合、まだ信用力が広く知れ渡っていない企業をいち早く見出し、貸出ボリュームを増やすことができるのではないでしょうか。

そうなれば、その銀行は、利率は低くても、貸出額が増えた分、金利収入をかさ増しすることができますから、カネを遊ばせているよりは、収益力が上向くでしょう。

この場合、気をつけたい点は、その銀行は信用のある企業への貸し出しを増やしたことです。別にその銀行は、リスクをとりにいったわけではありません。

なお、今の金融緩和の状況下では、利ざやが縮小しているため、金利設定の自由度は低いはずです。なので、この方向性に進むのは、そう簡単ではないとは思います。

(2)新規融資領域の開拓

スルガ銀行は、この方向性に進んで問題を起こしたのではないかと思います。単身女性や独立企業主。必ずしも信用力が高いとは言えない新規領域に融資を拡大しました。

それが目利きによる信用創造ならよいですが、積極的にリスクをとる発想で進めたとすると、信用を創造する銀行業の常道には反しているのではないでしょうか。

「ちゃんと審査して信用力があるから貸したんだ」とするなら、金利も低く、貸倒引当金も少なくしなければなりません。

リスクの高い新規領域への融資を進める場合は、どのようにリスクをヘッジするのか、明確な考え方が必要でしょう。金利の利率を高めに設定し、収益に余力を生んだ範囲で貸倒引当金を多めに積めばよいのかもしれません。

しかし、融資先の破綻を前提に置いた融資の拡大には、疑問が沸かなくはありません。リスクの高い先には引当金を積めばよいのではなく、貸さない方がよい。本当にリスクが高い事業に資金を融通するなら、投資家などのリスクマネーの供給が妥当ではないでしょうか。

(3)合併・統合戦略

各地銀の間で、ここ数年急速に広がっている動きです。規模のメリットを得て、効率化を図る狙いですが、どこまで進むでしょうか?

(4)経費の削減

メガバンクは、この方向に舵を切っているようです。方策として、例えば、新規採用の抑制、支店網の再編、ATMの共同運用、AIの活用等が、よくメディアで取り上げられています。

一見すると、守りを固める方向性に進んでいるように見えます。しかし、これで固定費が下がり、収益体質が筋肉質になれば、今後金融緩和が出口をむかえて利ざやが回復してきた場合、利益率が一気に向上するかもしれません。

 

4 考察

(1)銀行業界には競争原理が働いている

元気なニュースの乏しい銀行業界ですが、金融緩和の状況下で、銀行業界には競争原理が働いています。各銀行が競争力をつけるために経営努力することは、経済全体にとっては、それなりによいことなのではないかと思います。

そこで、スルガ銀行のとった戦略には、ノーが突きつけられたわけです。単にリスクをとって利ざやを稼げばよいわけではない。それが銀行界の教訓になり、全体の方向性も絞られてくるかもしれません。

(2)銀行受難の次は企業の選別か

金融緩和で銀行が苦しんでいる一方、多くの企業は資金の調達に苦労せず、甘やかされている側面がなくはないと思います。今後金融緩和が出口をむかえた時に、貸出金利が上がることになると、企業が満喫した“宴”は終了するでしょう。

ポエタは考えます。その時市場は、競争原理を立ち上げ直し、真の企業家か否かを選別するでしょう。その役割の中心は蘇った銀行家です。果たして、銀行が真の信用付与機能を果たし、適切に企業家を選別することができるでしょうか。

銀行は、今の内に、単に収益力強化のための構造改革を行うのみならず、審査能力を高め、企業の目利きを養う必要があります。利ざやが回復し、金利設定の余力ができた時こそ、真の“銀行家”の登場が待ち望まれます。

(3)銀行「業界」がもつべき課題の射程

金融緩和の状況下で、銀行は企業に「借りて下さい」の状態です。しかし、今後企業の選別が始まったときに、銀行は選別機能を果たす覚悟をもつでしょうか。

今の内に、銀行「業界」の課題は、次の4段階先のレベルまで射程に収める必要があるように思います。

①銀行の収益基盤を固める

②信用付与の力をつける

③貸付先企業の収益改善(あるいは再建)

不良債権処理に必要な財務体力の蓄積

銀行は単に、金融緩和時代を乗り切れば済むのではありません。その先が、本当の銀行家の勝負所だと思います。

 

5 まとめ

  • スルガ銀行の不祥事の背景には、金融緩和時代の経営環境悪化があるのではないか。
  • 銀行が国内市場で取り得る方向性は大きく4つ考えられるが、選択肢は限られている。
  • 銀行は、金融緩和を乗り切るのみならず、その先を見据えた課題も射程に入れて経営体力を蓄える必要がある。

ポエタ

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