課題の教科書

Critical Realism for All Leader

プラトンの哲学|哲人政治の理想と現実

プラトン(前5世紀後半−前4世紀前半)。古代ギリシアアテナイの哲学者。ソクラテスの弟子として哲学を志し、多くの対話篇を著した。一切テキストを残さなかったソクラテスの思考を、今に伝える「ソクラテス文学」の始源の一つとなり、脈々たる西洋世界の思考の始点となった。

プラトンは若い頃、師であったソクラテスアテナイの民主制下、無実の罪で死刑に処される惨劇を目の当たりにしている。プラトンは、民主政治のあり方を問い続け、哲人政治の理想を標榜した。三度シチリアに渡り、僭主ディオニューシオス1世、2世に哲人政治の理想実践の望みをかけたが、折り合い悪く、全て挫折している。

この人の経歴をみるにつけ、思いを新たにすることがある。優れた政治思想家は、得てして政治家としては不遇である。孔子の思想も、現実の政治を規定する枠組みとなるのに、相当の時間を要した。彼ら、政治思想家は、多言をもって政治の理想を語る。しかし、その文書の裏地には、広大な余白が残されている。理想家は、その余白を埋める実践家の到来を期待するが、そこに誰が何を書き記すかは理想家当人も知らない。理想家は多弁なる言葉足らずである。理想家の万言は、実践家の一事に及ばない。 

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理想主義者の言葉は、現実を軽視した稚拙な自己満足として、世慣れた連中から嘲笑の的となる。しかし、政治思想家は、後世の政治活動家の力学的計算が立ち戻るべき基本原理を打ち立てる。現実の発展は、理想の成熟と軌を一にしなければならない。理想が現実に熟す時、理想は別の実体へと深化する。理想主義の抱える問題は、課題となったとき、解決の道筋が現実に見えてくる。 

ソクラテスアテナイ市民に直接問いかけることに命を懸けた。プラトンは対話篇の著述に心血を注いだ。両者ともに、人間相互の関わり合いにおいて、真理が啓かれることを期待した。哲学は、真理に到達するための算段を立てる知恵のことである。プラトンの重視した対話は、哲学第一の手段である。 

では、プラトンが到来を期待した哲人王は、何をする人か。哲人王が、知恵と勇気と節制を備えた人だったとして、その人は何をすることを期待されるのであろうか。この問いに答える人の実名は、対話篇のどんな余白にも書き込まれてはいないだろう。理想の成熟は、課題が出たときに完了する。誰のどんな目的に照らした課題なのか。プラトンが書き残した未完の理想は、後世の課題として余白を広げている。

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