課題の教科書

Critical Realism for All Leader

エドマンド・バーク『フランス革命の省察』|保守主義の思想について

エドマンド・バーク(1729−1797)。フランス革命時代のイギリスの政治家である。革命主義の急進的な広がりを憂慮し、イギリスの伝統的な精神を説いた『フランス革命省察』は、保守主義のバイブルとして有名である。

バークにとって、フランス革命の指導理念は、人間の本性である権利と権力が衝突する政治問題を、子どもが白紙に定規で線引きして幾何学を解くように解決しようとする、空理空論のようなものだった。

「フランスの建築師達は、目に入るものはすべて、単なるがらくたとして一掃してしまい、そして、彼らの国の装飾庭園師にも似て、すべてをまったく同じ水準にした上で、地方と中央の全立法組織を一つは幾何学的、一つは算術的、一つは財政的という別々な三種の基礎に立脚させるよう提案しました。」(エドマンド・バークフランス革命省察』半澤孝麿訳、みすず書房、P.218) 

革命は、単に近代に始まったことではなく、常に昔からある権力闘争の蒸し返しであり、掲げられた理念は、新しくデザインされた古着の縫い合わせのようなものだ。バークにとって、革命はいついかなる時にも遍在する、人間の困難の一つでしかなかろう。 

「困難とは峻厳な教師です。(中略)我々と格闘する人間は、我々の神経を鍛え技を鋭くしてくれます。我が敵対者は我が援助者なのです。困難との間に交わされるこの友誼的戦いは、我々に自らの目的を熟知せざるを得なくさせ、それをすべての関係性の中で考慮するよう強います。」(前掲書、P.211) 

バークが肝に銘じたことは、政治家の課題は、あらゆる変化、急激な変革に至るまで、時代の変化に対して、的確に適応することであり、常に伝統的精神を清新に生まれ変わらせることである。 

「最初からあった植木の性質にそぐわないものを、そうした遺産たる幹や元株に接ぎ木しないよう、我々は注意を払って来ました。これまで我々の行ってきたすべての改革は、昔日に照らすという原理の上に立っています。今後あるいはなされるかも知れないすべての改革も、先例や権威や実例との類比との上に注意深く行われることを私は願っています。いやそう確信しているのです。」(前掲書、P.41) 

バークにとって大切なことは、今起きている現実をよく観察することである。人間の理想あるいは目標というものを、理性がただキャンバスに描き出し、目標から算出された設計図に、力にものを言わせて、現実を従わせることではない。ましてや、性急に理論的目標を追求し、バランスを喪失し、破綻させることに、やりがいの源を見出すことでもない。バークの思想は、リアリズムである。労苦を捧げるに値するのは、理想ではない。現実的問題である。敵対する相手の表情に心を照らし合わせながら、欲望と打算に打ちひしがれそうになっても、向き合い続け、絶えざる交渉を繰り返す。その労苦のただ中に兆す希望は、遠い理想ではなく、手元の現実を照らすものだ。 

「我々は補い、調整し、均衡をとります。」(前掲書、P.214)

バークの思想の根底には、イギリス伝来の経験主義が流れており、コモン・ロー的な法秩序に対する絶対的な信頼が根ざしている。しかし、保守主義が、フランスの革命思想と全く異なるとすれば、現実において異なっているだけだ。常識と良識の両立こそが、保守と革新とを問わず、優れた政治家たちの追い続ける普遍の理想である。その理想的な形而上学的枠組みなくして、現実の論戦や交渉が成り立つことは、また望むべくもないのである。 

バークは、保守主義の理想を唱えたのではない。政治の現実、実務家がとるべき姿勢と忍耐強い手続きを、克明に述べたのである。その趣意は、単に保守と革新の区別を画するものではない。政治の成熟と未熟とを隔絶してみせたのだ。バークの口から、いつ、「保守主義とはかくあるべし」という言葉が漏れただろうか。

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