課題の教科書

Critical Realism for All Leader

卒論の書き方(文系編)|(3)第一次文献調査

卒論のテーマを選定した後は、第一次の文献調査に入ります。到達目標は、結論(仮説検証)を導くための、論点整理です。これがテーマ選定後の、大きな山場になると思われます。論点整理は、卒論でどういう論理展開を描くことになるのか、何をどこまで調べれば十分なのか、読者に対する説得力をどの程度実現できるのか、という卒論の品質を大きく左右します。

これまでの記事(2つ)です。 

www.critical-realism.com 

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今回は、その続きです。今回の記事の目次です。 

  

1.第一次文献収集の狙い 

テーマ候補の絞り込みの段階では、ある程度先行研究や関連資料の探索は行っていると思いますが、いわば空書きしたような状態であり、なぜそのテーマを選んだか、を説明するための整理しかできていません。 

特に次の検討項目について、より具体的に、再整理していく必要があります。 

 ①問題の定義

 ②問題解決のアプローチ

 ③結論の仮説 

そのために、第一次文献調査を行います。 

文献を調べて行くと、問題の定義の仕方やアプローチは、当初考えていたように、上手くいかないことに気づくことは、よくあることです。仮説もそうです。第一次文献調査の目的は、自分の思い込みを、打破することです。調査は、自分の仮説を検証するために行うものですが、結局、ちょっと考えた程度の仮説は、ひっくり返すのが当たり前だと思っておいた方がよいです。 

第一次文献調査の目的は、主に次の4点に整理されます。 

 (1)問題定義と解決のアプローチの再検討(=論点整理)

 (2)事実の把握

 (3)学者の見解の参照

 (4)仮説の練磨 

それぞれの目的について、説明していきます。 

(1) 問題定義と解決のアプローチの再検討(=論点整理) 

問題は、単に好奇心に従って、立てればよいわけではありません。問題定義は、それが解けたら、どんな効果が期待できるかが、あらかじめ想定できるものであるとよいでしょう。なおかつ、その問題が解けそうだという見通しが必要です。つまり問題解決のアプローチが明らかでないといけません。 

その場合、問題が問題である理由を明らかにすることが重要です。問題の性質と構造の解明です。問題の存在理由の解明は、解決のアプローチを組み立てることと、ほぼイコールです。問題がどんな性質と構造をもつのか、それを資料調査によって多面的に考える必要があります。そのために、文献、つまりテクストは、考える材料であり、思考を触発する貴重な資源です。 

問題の的確な定義ができた証は、論点整理ができていることです。普通は複数の論点が出ている必要があります。論点は、それに答えることが、結論を出す上で必然的なものです。卒論の執筆過程全体において、常に重点を置くべきものです。さらに、論点同士の論理的関係をつないでいくことが、問題解決のアプローチと直結します。 

(2)事実の把握 

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卒論を書く上では、事実と考察は区別する必要があります。どういう仮説を証明したいかはともかく、事実は事実として尊重する態度は必須です。事実は、自分の仮説を検証にさらす上で、ある意味手強い存在です。事実調査は、現実から常に風圧を感じながら、忍耐強く進める過酷な作業です。しかし、事実を一つひとつ調べあげ、見直すことで、問題定義と解決のためのアプローチが、徐々に厚みを増していくでしょう。 

(3)学者の見解の調査 

文献の中で示されている学者の見解は、事実に対する見方、考察の参考になります。自分が、ある文献を読んで、読み飛ばした重要な点、遠く離れた事実同士で関連を見落とした点を、きちんと整理して、考察を展開してくれています。そういう学者の見解、知の集積を参考にすることは、自分の考えの抜け漏れを補うよい機会です。そして、問題定義や解決のアプローチを、厳しい検証にさらすことができるでしょう。あるいは、より適当な解決のアプローチを考えるヒントを見つけるかもしれません。 

(4)仮説の練磨 

第一次文献調査は、仮説がひっくり返るくらいのエネルギーを注ぎこむ必要があるでしょう。事実を調べていく中で、「やっぱりそうだった」という感想を得た場合は、十分に調べ上げたかどうか、よく見直した方がよいと思われます。「そんなわけがない」と思わず口ずさんだら、それは事実調査に甲斐があった兆候です。 

そして、仮説を練り直す場合は、問題定義と解決のアプローチの見直しを検討する必要があるでしょう。問題と仮説は別々のもの、と思うかもしれません。確かに論理的には別々です。しかし、実際問題、両方とも見直さないと、バランスが成り立たなくなることがあるかもしれないので、よく見直した方がよいでしょう。

  

2.第一次文献調査の方法 

(1)主要文献の特定 

卒論のテーマは、何らかの学問領域に属しているでしょう。各学問領域には、その分野の学会で議論された知見や、有力な学者の見解を集大成した、主要文献があります。この、主要文献には必ず目を通しておく必要があります。 

主要文献で取り上げられる論点は、その学問領域において議論されてきた論点を、おおむねカバーしているでしょう。卒論のテーマが、その論点マップの中で、どの辺りに位置付けられるかを把握することは重要です。 

また、主要文献は、その学問領域における、基本書であることが多いですから、卒論に取り組む過程で、先生や院生と議論する上で、不可欠な予備知識を備えるのにも適しています。 

どの文献が主要文献なのかは、図書館のシステムで検索しても、余りわかりません。一種の土地勘のようなものです。担当の先生に質問などして、教えてもらった方がよいでしょう。 

(2)調査ノートの活用

文献を読み込んでいく過程で、読んだことは、ほぼ忘れていきます。読んでいて、大事だなと思ったポイント、疑問が湧いた点、参考になりそうな所は、抜粋して、専用のノートに筆写することをお勧めします。 

図書館で借りた本を片っ端から読んで、机の隅に積み上げていくうちに、「あの記述はどれだったかな?」という状況に、必ずなります。多少時間はかかっても、専用ノートに、抜粋箇所を並べていくと、書きながら記憶が定着しますし、あとで最初から読み返していくと、自分がどんな問題意識の流れで文献を読み込んでいったかが、よくわかります。そして、テクストを一箇所に集めることで、卒論テーマに取り組む自分が、テクストの中で思考を巡らし、事実と格闘するためのツールを手にすることになります。専用ノートに蓄積されたテクスト群は、思い迷ったら、立ち返るべきフィールドになっているでしょう。 

また、出典情報を付記することで、卒論の文献リストを作成する上での、データベースとしても活用できるでしょう。 

(3)大学内外の情報源の活用

情報源として、以下のようなソースが考えられます。 

まず、自分で調べることが基本です。図書館の情報カバー率は、相当高いので、頻繁に活用することになるでしょう。その上で、先生や院生に聞くと、意外な情報源を教えてくれる場合があります。インターネットでは、国会図書館のデータベースを検索できます。有料ですが、複写・郵送サービスもあります。日本で出版した場合、国会図書館に、出版物を全て納める義務があります。日本の文献で、見つからないものは、国会図書館にアクセスするとよいでしょう。ネットでは、電子ジャーナルを読むためのサイトもあります。 

(4)ネット活用 

インターネットには信用に足らない情報も多くあります。特に出典が明示されていないテクストは活用しない方がよいです。活用する場合も、原情報は自ら入手しましょう。 

ネットでも、以下のようなデータは、一定程度信頼に足るものでしょう。 

  •  ニュースサイト
  •  官公庁の刊行物、公表データ
  •  民間統計機関の統計資料
  •  法令・判例データベース(法務省、裁判所など)
  •  その他公的機関のサイト(大学、研究所、博物館など)

また、出典が明示されていない情報も、自分が考えるための着眼を得る上で、参考になる場合があるかもしれません。ネットの情報は責任をもって対処しましょう。

 

3.留意点 

(1)仮説と事実をもって粘り強く思考を錬成しよう 

文献調査は、根気よく続ける必要があります。調査ノートに、日々調べたことをもとに、抜粋を書き込みながら、自分の思考を錬成していく、気の長い作業です。すぐに成果を得ようと焦るのは禁物です。仮説をもって臨み、事実に対して謙虚に向き合い続けることで、道は開ける、そういう意思をもつことが拠り所です。面倒だと思うかもしれませんが、思考を錬成する体験は、貴重です。社会人になって仕事をもつと、いろんな事が複数散発的に起きて、一つのことに集中することができない環境に身を置くことが普通です。じっくりと、事実を丁寧に整理しながら、一つの有意な結論を導く経験は、社会人としての考え方を養う上で、きっと宝になるでしょう。

(2)方向性の転換には相談相手をもちましょう 

また、仮説やアプローチを変更することに、あまりためらわない方がよいでしょう。しかし、コロコロと変えても実りは得られません。方向性を変える場合は、先生や院生に相談して、はっきりとした見解と見通しをもった上で変更した方がよいです。

(3)先生を研究パートナーにしよう 

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自分の卒論研究の紆余曲折は、先生と共有することがポイントです。煮詰まってから相談すると、プロセスが共有されていないので、会話が成り立たなくなる恐れがあります。土壇場で、厳しい一般論と、大学職員なりの要求を突きつけられる結末は、避けた方がよいです。まともな学者であれば、努力を厭わぬ態度で、教えを請えば、きっと迎えてくれるでしょう。

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