課題の教科書

Critical Realism for All Leader

卒論の書き方(文系編)|(2)問題解決のアプローチの例の紹介

おそらく、卒論の書き方(文系編)を読んでいて、実践が特に難しいのは、問題解決のアプローチの部分だと思います。理屈の上では、書いてあることは理解できても、具体的に何か例示がないと、のみ込めないですよね。今回は、問題解決のアプローチの例を紹介します。テーマ選定時のテーマ候補の絞り込みの段階で検討する、問題定義と問題解決のアプローチ(例)です。今回は、法律分野です。

前回の記事です。 

www.critical-realism.com

 

なお、今回の記事は、あくまでテーマ候補を絞り込む段階を想定しているので、例示されている検討内容自体が客観的に正しいわけではありませんし、あくまで架空の例を作成したものとして理解してください。この例を引き継いで、立派な卒論が書ける保証はありませんし、卒論は自分固有の問題意識で書くべきものです。念のため。 

今回の目次です。 

Ⅰ.問題の定義 

1.知識の棚卸し 

まず、どんな好奇心から始めるかです。民法が研究分野なら、漠然とした知識を整理してみます。 

 ・日本の民法は明治期にフランス法を輸入して制定された。

 ・戦後も、一部を除いて、民法の大枠は継承された。

 ・平成に民法は大改正された。(でも大枠は、そんなに変わっていない。多分。)

 ・フランス法は、革命後のナポレオン法典が基になっている。 

ここで、現在の日本の民法にもナポレオン法典の影響が及んでいるだろう、と推定してみました。日本の民法とフランスの皇帝、両者は遠い関係でも、法の歴史としては、実は縁があるかもしれないな、と関心が向きます。 

歴史の知識をひもとくと、ナポレオンは、ヨーロッパに戦いを広げ、領土の拡大とともに革命の精神を広げようとした。そういう知識がぼんやり浮かんできます。革命の精神は、「自由」と「平等」だったかな、と記憶しています。果たして、日本の民法にも自由と平等の理念は受け継がれていただろうか。そういえば、日本の戦前の民法の大枠は、戦後、民主化されても引き継がれたんだな。その理由は、民法がそもそも自由と平等の理念を継受していたからなのかな? そう思いつきました。 

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一度、ざっくり、これまでの思考の流れを整理してみました。

2.仮の問題定義 

(1)問題意識 

なぜ、日本の民法は、戦後も、ほぼ大枠を変えずに生き残ったか? 

(2)問題定義 

日本民法(の構造)の長期存続の理由は何か 

(3)漠然とした仮説 

明治期から、日本の民法には、自由・人権・平等の理念が組み込まれていたからではないか。その背景には、フランスからの継受にあたって、ナポレオンが標榜したフランス革命の理念を型としたナポレオン法典の残滓が流れ込んだからではないか。

 

Ⅱ.問題解決のアプローチ(例)

1.考え方 

戦後に日本の民法は大枠変更されなかったとしても、家父長制的な規定は改正されたはずだったよな、と思いつく。実際は、変わった部分はあった。で、何が変わって、何が変わらなかったの? という疑問が湧く。この疑問に答える意味は何だろうか? そうだ、変わらなかった民法の内容を特定して、その法律の根底にある思想が、ナポレオン法典の理念と通じているかどうかを調べたらよいのではないか。

そう考えたときに、ナポレオン法典の理念って、具体的に何? それは調べないとわからない。調べるとき、理念と言っても、法典に明示的に示されるものと、法慣習や裁判の過程で浮かび上がる、実務的な暗黙の了解、こういう二つの層に理念が潜んでいる可能性があるから、少し厄介かな、と思う。

そういえば、明治期に日本がフランスの民法典を輸入するときに、ほとんど中身の精査より、翻訳して丸写しだった、と聞いた事があったよな(結局その法案は施行しなかったそうだけど)。あるいは、フランス人のボアソナードが手を入れた法案がベースになって、とりまとめたんじゃなかったっけ?日本の法学者は、フランスの理念に基づくフランス人の法的思考を、どこまで理解し得ただろうか?そういう意味でいうと、ナポレオン法典の理念を間接的に継受したと言っても、法典に明示的に示されたものは、単なる字句理解としては継受しても、実務的な暗黙の了解にまで深まった成熟した理念は、ほぼ受け継がなかったのかもしれない。ナポレオン法典の理念を、どういう階層で仕分けして特定するかは、重要なんじゃないか、と思う。

さらに、ナポレオン法典も、実際、どこまで先進的だったかはわからない。当時としては画期的だったにしても、案外因習に満ちた封建的な要素は残っていたかもしれない。ナポレオン法典の近代的要素は、どの程度、法典の条文に明示されていたか、あるいは実務的な意識に、どの程度浸透できていたか、という調査は必須のような気がする。

それによって、日本の民法典が、どの程度ナポレオン法典の影響を受けたかが、はっきりしてくるんではないか。それ次第で、仮説の妥当性も、随分変化するような気がする。ちょっと心配。だけど調べないとわからない。そう思った。 

あるいは、日本が輸入した当時のフランス民法典が、ナポレオン法典時代から、どう変化していたかも重要だ。実は、ナポレオン法典の因習的な部分を、大部分刷新して、ようやく近代的な法典になったのかもしれない。そういう意味では、日本の民法に残っているナポレオン法典的なものって、どれくらいあるんだろうか。それ次第で、日本の民法が戦後、大枠を維持した理由は随分変わるような気がする。と思った。 

調べてみないと、わからないけれど、日本の民法は、条文自体が、実はどういう理念でできているかは、何とでも解釈できて、理念の実現は、実務的な配慮次第で、なんとでもなる代物だったのかもしれない。フランス的な法の条文を、ただ表面的、形式的に継承し、理念的理解を深めていなかったのなら、ありえるかもしれない。だから、戦後も、明らかな封建的規定、特に家族法の部分は改正されたけど、他の部分は、特に賞賛すべきものではないが、戦後憲法とは矛盾しない、どっちつかずの規定だったので、結果的に、ほぼ生き残ったのかもしれないな。あくまで仮説だけど。と思ったりもした。 

...と、考えだすとキリがない。 

2.問題の再定義 

つらつら考えたところで、問題の定義を再検証してみました。 

(1)問題意識 

なぜ、日本の民法は、戦後も、ほぼ大枠を変えずに生き残ったか? →踏襲 

(2)問題定義 

日本民法(の構造)の長期存続の理由は何か →踏襲 

(3)漠然とした仮説 

  • 明治期の民法における、自由・人権・平等の理念は、条文構成上の「形式的継受」でしかなかった。ナポレオン法典の理念的要素は、明治日本の民法典に対しては、

      −明示的には、・・・な形式的な要件を引き継いだ程度の影響しか与えず、

   −黙示的(実務的)には、ほとんど・・・しか影響しなかった。

  • 真の近代的理念の継承は、戦後の法改正において、アメリカ主導の統治改革において、社会的・実務的な意識の刷新として行われるのを、待つほかなかった。

  →かなり、修正してみました。

3.問題解決のアプローチ  

仮説を検証する考え方で、アプローチの例を整理してみました。  

(1)論証のための分析ツールの準備

 〜「フランス革命の理念」の法的概念としての把握

  • 政治的理念の法的理念への転換がどう行われたか
  • 法的理念を胚胎する法的温床はどのようなものか

   例)実体法と手続法/制定法・判例・慣習/・自然法の位置付け

  • ナポレオン法典において、政治的理念は、どの法的温床にどのように保持されたか 

(2)仮説検証のための分析

  • ナポレオン法典から明治民法までの過程で、受け継いだ法的理念は何か
  • 各過程で受け継いだ法的理念が存在した法的温床はどこか

   例)条文規定、判例、法実務、慣習法、社会の習慣

  • 終戦後における民法改正において法的理念はどのように再構成されたか

  ・改正対象の由来はフランス法のどの部分だったか

  ・アメリカの政治的措置が独自に影響を与えた範囲はどこか

  • 平成の民法大改正の理念的考察

  ・理念先行型の実態改変のための改正or実態に合わせたバランス調整型の改正 

(3)検証の結論出し

  • 明治期のフランス法継受の実態は近代的理念の積極的導入ではなかった。
  • 戦後アメリカの政治的統治改革が日本の民法の近代化を積極的に促進した。
  • 見る限り、法理念の継承・定着は、政治的動態の成熟を待つほかない。
  • しかしながら、日本の民法が、結果的に長期の安定性を実現したのは、ナポレオン法典を源流とするフランス法の理念的な形式条件を最低限備えていたからである。 

※本研究の示唆として、平成の民法大改正の理念的考察も合わせて踏まえると、法改正は、一般的に、理念的価値を具体的な社会活動に浸透させようとする政治的措置と、社会実態の変化に合わせた法規範の理論的調整とは、明確に区別した上で行うことが、賢明であるとの見解を基礎付けることができ、

・・・などと結論付ける調査ができると、卒論の序論で、取り組む目的や問題解決の意義を、堂々と述べることができるでしょう。(イメージです。) 

4.卒論テーマの設定 

 日本民法における近代的理念の継受に関する歴史的考察

  〜日本民法の歴史的な法的安定性の背景と理由について 

Ⅲ.留意点 

1.問題解決のアプローチは立てても崩れる、諦めない 

試しに、アプローチを立ててみましたが、続きを考えたり、資料を調べ始めたら、簡単に崩れると思います。大事なのは、考え方、あるいは諦めずに考え続けることです。悩んだら、問いに立ち返ることです。問いは問いでも、シンプルな問いを持つことです。複雑な問いをもつと、思考は乱れます。いかに整った問いをもつかが大切です。 

2.今回の例示では、先行研究の調査は未着手 

この時点で、先行研究は全く調べていません。調べると、そんなこと分かり切っている、あるいは間違っている、と言わんばかりの論文がたくさん出てくる可能性は濃厚です。今回の記事の目的は、あくまで問題解決のアプローチの考え方の例を示すものです。ご留意ください。

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3.卒論の事例ばかり探しても、実りは少ない 

初めての論文執筆ともなると、どういうものが模範例なのか、他の人は何をやっているのか、そういうことが気になると思います。ある程度は、他の事例を探すことには意義があります。確かに、参考になる場合もあるからです。しかし、不安なあまり、そればかりに時間を費やしても、得られるものは、少ないでしょう。あくまで、参考にするための事例であり、目的は、あなたが問題意識をもち、考え続け、行動することです。

 

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