課題の教科書

Critical Realism for All Leader

卒論の書き方(文系編)|(1)テーマ選定の考え方

大学時代の最後にして最大の難関。卒業論文。ほとんどの人が、初めて本格的な論文執筆に取り組むのでは、ないでしょうか。論文執筆には、いくつもの作法があり、形式的な要件は、いろいろあります。また、書く以前の、思考法やモチベーションの問題も重要です。今回は、テーマ選定の考え方について、説明します。

1.卒論で苦労すること・悩み 

学生の頃、卒論の執筆に苦労したおぼえがあります。卒論に取り組む頃になり、もっと前から準備していればよかった、と思いました。いざ書くとなると、そのほかにも、色々と悩みました。 

(1)課題となる字数が結構多い。

(2)書く前に結論が出せるかどうか不安。

(3)指導する先生(主に教授)に合格を出してもらえる水準に到達するか不安。

(4)後に残るものとして恥ずかしくない論文を書きたい。 

ですが、一番悩んだのは、次の点です。 

(5)論文テーマの選定が難しい。

なぜ、これに一番悩むか。テーマを何にするかによって、上の(1)から(4)の全ての問題に影響が出るからです。テーマ次第で、書ける文章量、結論の出し方、先生の心証、論文としての出来不出来、が全て変わってきます。テーマ選定は、卒論の正否を分ける、最重要ファクターと言っても過言ではないでしょう。

 

2.卒論テーマの考え方 

(1)卒論テーマ候補の列挙のための切り口 

卒論のテーマは、一個思いついたくらいでは、それがあなたにとって最適であるとは言い切れません。一つテーマ候補が浮かんだところで、それに絞っていきなり書くのはリスク大です。3つ4つ、あるいは5つ6つ位、候補は複数挙げた方がよいでしょう。書けるか書けないかは別にして、候補だけでも、一定程度挙げたほうがよいです。いくつか候補を挙げた中で、モノになりそうなテーマを選んで書いた方が、よい結果に近づくでしょう。 

卒論のテーマ候補を考える切り口は、5つあります。

①好奇心 

論文は、問いをもつことから始まります。卒論を書くモチベーション(動機・やる気)は、卒業したいから? 確かにそうでしょうが、卒論は論文です。どんな問題意識で取り組むかは、論文の生命線です。卒論は、「卒業したい」という思いだけでは、書き切れるものではありません。卒論を仕上げるには、いくつかの難関があります。それを乗り越えるための一番のよりどころは、モチベーションです。技法も必要ですが、半年、一年で身につくスキルは、たかが知れています。今のあなたの実力で勝負しなければなりません。本音ベースの好奇心で設定したテーマなのかどうかは、モチベーション上極めて重要です。 

②社会人・院生に進むための課題 

卒論は書いて終わり、ではないですよね。卒論を書いた経験は将来にわたって、あなたの取り組みの考え方の基礎をつくりあげるでしょう。そもそも今、何に自分は取り組むべきなのか。この観点で、卒論のテーマを考えてみることも重要です。例えば、高校生時代にこの学問を学びたいと思った理由。入学当初から、特に思い入れのあったこと。卒業後、就職するのなら、その後のキャリアを築く上で、学生の間に蹴りをつけたい疑問点。そういう学生生活の原点、これまでの経過、そして近い将来を見据えた上で、今、取り組まねばならない課題を考え、その課題への取り組みの一手段として、卒論執筆を位置付ける。その視点で、卒論テーマを考えたら、新たなテーマ候補が見えてきませんか? 

③研究者共通の課題、学会で旬のテーマ 

卒論も立派な論文です。論文である以上、その学問領域での研究発展に寄与することが理想です。また、将来研究者を目指すのであれば、将来の旗揚げ準備として、自分の興味関心をはっきりと打ち出し、研究者としての基礎を打ち固める機会です。学会誌を精読したり、指導教授・上級学生に相談するなどして、今の学会で旬になっているテーマや、研究者の間で取り組むことが課題になっていることにチャレンジすることも、卒論テーマを考える切り口になるでしょう。 

④社会問題との接点 

大学は教育・研究機関としての役割を社会から期待されています。学生は大学の一員ですね。今、話題になっている時事問題に関して、問題解決に役立つテーマで卒論を執筆すれば、立派な論文を書いたことになります。普段のネットやテレビ、新聞のニュースなどで、たまたま紹介された研究成果について、調べて、まだ取り上げられていないテーマがないか、周辺領域に自分の関心のもてるテーマがないか、探してみてもよいでしょう。 

また自分が、もともと専門分野として抱えている研究テーマを、社会貢献につなげるアプローチで考え直すと、今までとは違ったテーマが浮上してくるかもしれません。あるいは、他の全く異なる学問領域との接点を探して、学際研究の試みでテーマを考えてみる手もあります。そういう視点で、独自性を見つけたり、社会貢献につなげる発想をもつことが、卒論テーマの候補を見つけるきっかけになるでしょう。 

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⑤学生としての勉学の集大成 

入学以来、自分が関心をもって、意欲的に取り組んできた調査テーマや研究テーマについて、卒論を機会に集大成する。そういう人もいるかもしれません。全く新しいことに挑戦することもいいですが、これまでの温めてきた調査・研究実績を織り込みながら、最終的な自分の見解をまとめてもよいですね。それが、大学時代の意義を高めることになり、意欲的に卒論に取り組むことにもつながるでしょう。

以上、卒論テーマ候補を洗い出す上での、切り口を紹介しました。

(2)卒論テーマの絞り込み・選定のための検証 

卒論テーマ候補を洗い出し、列挙した上で、各テーマ候補について、以下の項目に関する内容を考え、テーマ候補が卒論としてふさわしいかどうかを比較・検証します。  

①問題の定義

どのような問いに答えるのか。卒論として書く動機は何なのか。読者(主に指導する先生他)にとって、読んでみようと思える問題を設定できるか。この点をじっくり考えます。 

②問題解決のアプローチ 

いきなり文章を書き始めても、迷走することは必定です。結論を出すための調査の手順を考えてみましょう。あらかじめ考えた調査手順は、やってみると崩れることは、よくあります。ですが、崩れても、立ち返って調査の指針にすることのできる、考え方をもつことが大事です。 

また、どのように調べるかの方法(調査方法)を考える前に、まず何を調べるのか(調査内容)が、論理的に整理できている必要があります。「これこれの書籍を読む」というのは調査方法です。「ナポレオン法典の条文構成を把握する」というのは調査内容です。調査内容を一個一個整理し、それを組み立て、結論を導くアプローチを設計すると、思考のレベルが深まり、調査効率も上がるでしょう。

そして、それぞれの調査内容の「狙い」がポイントを付いていると、アプローチとして完成度はかなり高いものになります。完成度の高さは、先生や知人に、口頭で説明して、相手にとってわかりやすいか、を検証してみると、自ずとわかります。「なぜそれを調べるの?」という質問に、わかりやすく答えられるかが重要です。

最初から完璧なアプローチはありません。また「設計する」と言っても、精緻である必要はありません。資料にまとめることが目的でもありません。部分部分には穴があっても、頭の体操をしながら、自分の思考を慣らしていくことが大事です。その中で、書くべきテーマとそうでないテーマが見えてくるでしょう。 

③結論の仮説 

調べる前ですから、結論がどうなるかは、わかりません。もし結論が先にあるのだとすると、それは先行研究の焼き直しか、かつて取り組んだ研究のやり直しに近いもののはずです。 

ですから、卒論のテーマを考える時点で、結論というのは、「仮説」のことです。この仮説を持つことで、「②問題解決のアプローチ」の強度は、かなり違ってきます。仮説が後で違ったものになることは、よくあることですが、あらかじめ仮説をもつことで、問題解決のアプローチがしまりのあるものになります。「しまりがある」というのは、部分的に修正が発生しても、考え直しようがある、という意味です。 

④資料の所在、相談者の有無 

自分の問題意識で卒論テーマを設定しても、世の中に、先行研究の論文、参考となる資料、データが乏しいことがあります。あってもアクセスが困難、あるいは外国語の文献しかなく、読めない場合もあります。現実的な問題として、資料の所在やアクセス可否は、ある程度確認する必要があるでしょう。困難がある場合は、解決策を考えてみましょう。また、テーマ分野について、ある程度知見のある人が、知り合いにいるか否かという点も重要です。行き詰まった時の相談相手になってくれるかもしれません。 

⑤先行研究との重複

卒論のテーマ候補が、すでに発表された研究のテーマと全く同じである場合は、取り組む意義は、ほぼないでしょう。それでも、同じテーマで書くのであれば、先行研究とは異なる仮説を検証し、先行研究に反論を提示するスタンスをとる場合です。先行研究が、学会で相当程度認められた内容である場合は、かなりリスクが大きいと思われます。それでも、取り上げてはいけないわけではないですが、その場合は、かなり覚悟が必要でしょう。テーマを少しずらすか、先行研究を踏まえて、先行研究が考察しきれなかった、その先のテーマを設定する方が、現実的かもしれません。また、先行研究とテーマが重複しなくても、過去の研究において、部分的考察(サブテーマ等)で否定されたテーマを設定する場合も、同様に、注意が必要です。 

⑥調査、執筆スケジュールの策定 

調査の手順や調査対象・場所によって、多大な時間を必要とする場合もあります。②問題解決のアプローチのところで、調査すべき資料を膨大に列挙して、何を調べるのかが絞り込めていないと、読むだけで相当な時間をかけ、期限に間に合わなくなる可能性もあります。調査場所が、もし遠方あるいは海外だとすると、それなりに大変です。実際に自分がどういう動きをとって調査・執筆に時間をかけるのか、現実感をもって、大まかなスケジュールを立てる必要があります。 

上記①から⑥のような、項目について、卒論テーマ候補ごとに、考えてみてください。できれば、A3用紙に一覧表のような形で、検討結果の要約をまとめてみると、どのテーマ候補を選定するか、意思決定しやすいと思います。評価の軸を設定したり、項目に優先順位を設定して決めるやり方もありますが、①から⑤の中身をしっかり書き込める卒論テーマ候補であれば、よしこれにしよう、という気になるのではないでしょうか。 

この時点で、一つあるいは、もう一つくらいに、書きたいテーマが絞り込まれるとよいですね。 

(3)アウトラインの試し書き 

卒論テーマを一つあるいは二つに絞り込んだら、卒論のアウトラインを書いてみましょう。実際、書けるかどうかの筆ならしです。先ほどの「(2)卒論テーマの絞り込み・選定のための検証」の項目ごとの検討は、「書く内容」の検証ですが、今回は、「書き方」の検証です。 

卒論は、書くべきことがあって、書くわけですが、先に書き方を試しても、頭の整理ができていないと、あまりうまくいかないようです。「(2)卒論テーマの絞り込み・選定のための検証」の段階で、しっかり頭の整理をしておいてくださいね。 

下記(1〜6のレベル)が、アウトラインの項目例です。「・」で付記してあるコメントを参考に、中身の要点を書いてみてください。

1.まえがき

 ・卒論に臨むにあたっての経緯、心構え、個人的な思い等

  (本文の論理に収まりきらないこと)

2.目次

3.序論

 ・テーマ選定の理由(背景、取り組む目的)

 ・問題の定義

 ・アプローチの説明

 ・本論の構成

4.本論

 ・問題を解く(仮説を検証する)ための論点

 ・論理展開の構造(並列/直列 の構造)

 ・章立て(論理展開との対応関係)

5.結論

 ・結論(の仮説)

6.文献リスト 

「テーマ選定の段階で、いきなり、書けるわけない」という人が大半だと思います。大事なのは、書けそうかどうかの試し、です。本格的に調査・執筆する前に、書くときのことをイメージすることは、とても重要です。実際の卒論のアウトラインを考えることで、どの領域のどんな調査項目を、どれくらい深掘りして調べないといけないか、感触をもつことができます。 

あるいは、卒論テーマが、一つか二つに絞られているのなら、そのテーマに限って、第一次文献調査をしてみるとよいでしょう。どんな卒論のアウトラインになるか、ある程度あたりをつけて、それ以上続けるか、テーマを考え直すか、してみるのもよいかもしれません。 

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ここまで、検討して、よしこれで書こう、というテーマがはっきりしていれば、あとは頑張って調査し、書く態勢が出来上がります。簡単ではないとは思いますが、しっかりと意思固めできたのではないでしょうか。 

3.留意点

おそらく文系学部の学生にとって、卒論は孤独な作業になることが多いと思います。そんな時には、指導担当の先生や院生に相談に乗ってもらうとよいでしょう。その場合、注意が必要なことがあります。行き詰ってから相談するより、始める前や、始めて間もない段階に相談すべきです。行き詰まってから相談すると、全部最初からやり直し、となったりして、時間的にきつくなります。なるべく早めに、相談した方がよいです。それと、自分がどういう考え方で進めたいかという腹案をもった上で相談し、相談したいことが明確になっているとよいでしょう。疑問点が明確でないと、聞かれた方も、何を答えてよいのか、わからなくなります。そして、些細なことでも最初に相談しておくと、相手との関係が出来上がるので、その後も困った時に相談しやすい、というメリットがあります。

 

<編集後記>

 テーマ選定の次に何をやればよいのか、少し具体的に書いたものが下の記事です。

卒論の書き方(文系編)|(2)問題解決のアプローチの例の紹介 - 課題の教科書

卒論の書き方(文系編)|(3)第一次文献調査 - 課題の教科書

卒論は悩み多き課題です。

悩みに沈む前に、頭に刺激を与えましょう。

友人知人の他に、当の先生に聞いてみるのが一番です。

ハードルが高ければ、少し上の院生に相談すると、先生の思考パターンがわかるかもしれません。

どうすれば合格するかも必要ですが、学問の作法って何なの?ということを理解し、実践するのが根本的な課題ではないでしょうか。

学者によく聴き、よく学びましょう。

ポエタ

2018年11月17日改

 

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