課題の教科書

Critical Realism for All Leader

ペリクレス演説|ペリクレス時代の自由|人間の本然たるリアリズムが生み出す知恵

ペリクレス。紀元前五世紀後半に活躍したアテナイの政治指導者。ペリクレス時代において、アテナイは、ペルシアの脅威からエーゲ海世界を守るデロス同盟を率い、続発する問題への対処を果敢に実行した。

アテナイは、自給自足の成り立つ都市国家ではなかった。アテナイ市民は、交易によって食べていく必要があった。ペリクレスは、食糧の確保を重視した政略を展開したと言われる。 

ペリクレスの演説が今に伝わっている。 

「われわれは、公的な生活にかぎらず私的な日常生活でも、完璧な自由を享受して生きている。」 

アテナイの民主政体の意義と、その指導理念を唱える演説の趣旨は、「自由」と言う概念の福利を多面的に解釈したものとして読むこともできる。 

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アテネ市民が享受している、言論を始めとして各方面にわたって保証されている自由は、政府の政策に対する反対意見はもとよりのこと、政策担当者個人に対する嫉妬や中傷や羨望が渦巻くことさえも自由というほどの、完成度に達している。」 

民主政につきものの、衆愚という悪癖を、人間の本性として見て、その悪癖から生じる問題を、政治的指導力を発揮するための糧に変えてしまう、そういうアテナイの知性、指導力、優秀な人材の豊富さを、誇らしげに示すかのようである。 

「われわれが示す勇気は、法によって定められたり、慣習に縛られるがゆえに発揮されるものではない。一人一人が日々の生活をおくることによって築き上げてきた、各自の行動原則によって発揮されるのだ。」 

スパルタのように、国家の強制力で厳しく鍛錬された人材が、国を守るのではない。市民に自由を保証し、市民が自由な生活の中から、地に足のついたリアリズムを生み出す、その人間の本然の活力をこそ信じるのだ。 

「われわれは、富の追求にも無関心ではない。だがそれも、自らの可能性を広げるためであって、他人に見せびらかすためではない。(中略)私的な利益でも尊重するこの生き方は、それが公的利益への関心を高めることにつながると確信しているからである。私益追求を目的に行われた事業で発揮された能力は、公的な事業でも立派に応用は可能であるのだから。」 

経済的利益を追求したいという、人間の自然な動機を尊重し、経済的自由を、これもまた公的な利益に結びつける。ペリクレスの政治指導力の源泉は、見方を変えることだった。それは口先で上手いことを言うこと、とは違う。現実をありのままに認め、しかし悲観せず、人間の本性に基づきながら全体が調和する知恵を生み出す、まぎれもない知性の働きである。この演説に仕組まれたロジックは、過酷な現実認識を戦略的発想に転換する、ポジティブで徹底的なリアリズムである。

指導理念とは、市民が個別の知恵を生み出すための、大いなる知恵である。アテナイという国の経済力の限界。しかし、それが市民の中に富への渇望を生み、飽くなき経済活動を推進させ、そのことを国家の存立に役立てる。ペリクレスは、アテナイ固有の指導理念の懐の深さを、雄弁に語っている。ここに、個の動機と全体の利益との間を、自由に行き来できるようにする、いわば往来手形のように、市民がもつべき「課題」という意識が、活き活きとはたらくための源を、見ずにはいない。 

この優れた指導者の理念は、自由への愛が生み出すレトリックとして、後世に伝わっている。 

引用文献:塩野七生ギリシア人の物語II 民主政の成熟と崩壊』新潮社、2017年、P.159−161)

 

<編集後記>

ペリクレス演説をこちらの記事でさらに詳しく解説しています。

www.critical-realism.com

可能な限り演説文の全体を示しました。

一度読んでみてください。

自分の視点で解釈すると面白いです。

ポエタ

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